
メキシコ連邦政府が推進する国産電気自動車プロジェクト「オリニア(Olinia)」が、第1弾量産モデルの実像を明らかにした。大統領クラウディア・シェインバウム氏がみずから試作車を運転して壇上に乗り入れたのは、メキシコシティ近郊サンタルシア空軍基地で開かれた世界初公開イベントでのこと。発表日は2026年6月7日だった。
メキシコは北米市場への近さと人件費の安さを武器に、世界屈指の自動車生産国としての地位を築いてきた。しかし実際に生産を担ってきたのは米国・日本・欧州系の完成車メーカーであり、地場ブランドはニッチ市場にとどまって大衆向け量産車市場には食い込めずにいた。政府が「世界のために組み立てるだけの国」から「自ら設計し、つくる国」への転換を掲げ、その切り札として打ち出したのがオリニアだ。単なるEV開発にとどまらず、設計・エンジニアリング・製造・関連サービスまでを国内で完結させる新産業育成の国家プロジェクトだという。
今回披露されたオリニア・ウノは、都市部や地域内の近距離移動に特化した超小型モビリティである。メキシコで広く使われているバイクやモトタクシーの代替を狙って設計されており、旅客輸送はもちろん、宅配や訪問販売といった業務用途にも対応する。
エクステリアは無駄をそぎ落としたボックス形状を採用。ルーフには荷物積載用のカーゴバーを備え、ボディ側面には乗降を助ける大型グリップを配した。インテリアも簡素さを優先している。運転席正面には7インチディスプレイをひとつだけ配置し、USBポートはタイプC、スピーカーはBluetooth対応を2基備える。
定員は6名(2‑2‑2レイアウト)。2列目は後ろ向きに座る構造で、3列目と向かい合う対面式配置となっている。乗車人数や用途に応じて室内を荷物スペースに転用できる点も特徴のひとつだ。リアドアはヒンジを後方に配したいわゆる観音開き方式で、最大90度まで大きく開き、車いすでの乗車にも対応する。全長は約3.2m、全高は約1.8mと、小型ミニバンほどの寸法に収まる。
パワートレインは最高出力13kWの電気モーターと14.7kWhのリン酸鉄リチウムイオン(LFP)バッテリーを組み合わせ、後輪を駆動する。モーターはIP67等級の防水認証を取得済みだ。充電ケーブルは片端が一般家庭用プラグ、もう片端が北米標準規格(NACS)コネクタとなっており、専用の充電設備を用意しなくても利用できる。220V電源なら約4時間、110Vの家庭用電源でも約8時間でフル充電が可能。政府は来年末までに、メキシコシティおよび隣接するメキシコ州・プエブラ州一帯に2000〜3000基の充電ステーションを新設する計画を掲げている。推定航続距離は100km以上、最高速度は50km/hだ。
運行コストの低さも訴求ポイントだ。1km走行あたりの費用は0.5ペソ(約4.6円、2026年7月下旬時点)で、セダン型タクシーの2.4ペソ(約22円)やモトタクシーの1.18ペソ(約11円)を下回る。1日60km、月30日走行した場合の月間コストは900ペソ(約8400円)という試算も示されている。
開発には国立の研究機関が名を連ねる。実際には科学・人文・技術・イノベーション省(SECIHTI)が主導し、国立工科大学(IPN)、国立技術大学(TecNM)に加え、国立自治大学(UNAM)、プエブラ大学(UPAEP)までが参加する産学連携体制で進められた。生産拠点はプエブラ州で、2027年夏の量産開始を目指す。想定価格は15万ペソ(約140万円)から。なお同じ7月中には、小型商用車タイプの派生モデル「オリニア・カーゴ」も披露される予定で、乗用モデルに続くラインアップ拡充が予告されている。