今回取り上げるロールス・ロイス・カリナンは、現存する中でも「最も見栄えが悪いかもしれない」とも評される異例の仕様。英国製SUVながら、海外のチューニングブランドではなく、まるでOEM出荷されたようなスタイルで、見る者に違和感を与える。
外装は鮮やかなオレンジ、内装には淡いブルーと同系オレンジが混在し、強烈な色彩対比で「落ち着き」どころか不調和さえ感じさせる。ヘッドレストやステアリングには純正ロゴが残るため、正規車両もとの仕様改変の一環と見られるが、日本の感覚では過剰な演出だ。
日本国内で2024年に初公開されたカリナン・シリーズII(価格約4600万円〜、ブラックバッジは約5400万円から)では、外観・内装ともに洗練された上質感が重視されており、本来のロールス・ロイスらしいクラフツマンシップが感じられる。今回の仕様とは全く異なる美意識が反映されている。
このカリナンはインスタグラムの投稿を通じ、米国ディーラーが約63万8600ドル(約9,400万円)で販売を試みたとされるが、その後ディーラー公式アカウントでは投稿が削除され、実際に売却済みか単に取り下げられた疑いがある。まるで一時の話題作りだった可能性も否めない。
オレンジ外装はラッピングで比較的対処しやすいものの、内装の配色は難題。日本国内ではCarlex Designによる高級内装カスタムが知られているが、こちらも色のバランス調整や素材選びには熟練の技術を要する。改修費用は高額になりがちで、結果として車両価格が倍近くになる可能性もある。
この仕様を今すぐにでもまともに見せたいなら、極めて高額なカスタムを施すより、新しいカリナン・シリーズIIを正規に注文する方が合理的。シリーズIIは純正仕様ながら“五感に響く贅沢”を追求しており、日本の顧客層にも広く受け入れられている。
国内の中古車市場には、シリーズII以前でも魅力的なカリナンが多数流通している。落ち着いたボディカラー、ビスポーク仕様、低走行距離など、純正品質を維持したまま個性と希少性を備えたモデルも見られ、派手すぎ仕様に挑むより、価値ある選択肢が豊富に揃っている。
結局、このカリナンはジョーカー的なネタ車としては面白い存在かもしれないが、日本で乗るSUVとして選ぶ価値は低い。エクステリアの派手さを除けば、やはりクラフトマンシップと落ち着きを兼ね備えた標準モデルこそが、日本の上質SUV市場では評価される。価値と走り、そして見栄えを重視するなら、素直に正規シルエットを選ぶほうが賢明だろう。