
【引用:メルセデス・ベンツ】メルセデス・ベンツはA・B・C・E・Sと明快なヒエラルキーを持つ一方で、唯一Dクラスだけがラインナップに存在しない。この点はしばしば疑問として語られるが、同社が1990年代半ばに現行のクラス体系を確立した際、車種間のポジションが重複する恐れのあるアルファベットを事前に精査し、戦略的に排除した結果だとされている。業界関係者の間では、Dが使われなかった背景について複数の要因が重なったとみるのが一般的だ。

【引用:メルセデス・ベンツ】まず大きな理由として、欧州市場でDセグメント=中型車の立ち位置を、すでにCクラスが長年担ってきた点が挙げられる。Cクラスはサイズ・価格・販売実績のいずれにおいてもDセグメントの中心に位置づけられており、このポジションは各世代で確固としていた。ここにDクラスを新設すれば、Cクラスとの関係性が不明瞭になり、さらに上位のEクラスとの境界も曖昧化する。とくにEクラスはブランドの屋台骨とも言える主力モデルであり、その市場序列を守るうえでもDという新たな階層を設ける意義は薄かったと考えられる。

【引用:メルセデス・ベンツ】加えて、1970〜80年代の一部地域でDがディーゼルを示す略称として流通していた歴史的経緯も無視できない。燃料種別の表記が現在ほど統一されていなかった当時、ユーザーの間ではD=ディーゼルというイメージが強く、もしDクラスを導入すれば、こうした旧来の認識と混同されるリスクがあった。現在のラインナップでも、セダンはCがDセグメント相当、EがEセグメント、Sがフラッグシップという明確な構造を形成しており、SUVでもGLCが同様のポジションを担っていることから、Dの居場所は自然と埋まっていたと言える。

【引用:メルセデス・ベンツ】一方で、将来的にDクラス新設の可能性が取り沙汰されることもあるが、現状では実現性は極めて低い。電動化戦略の見直しに伴い、一時独立させていたEQシリーズを再び既存体系に統合する方針を示した同社は、アルファベットを追加する計画はないと明言している。EVやSUVが主力となる今後の市場でも、C・E・Sを軸としたクラシックな階層構造が維持される見通しで、Dクラスはあえて存在しないことで体系の整合性を保っていると言えるだろう。
