
北朝鮮のEVはどのようなものなのか。意外にも、北朝鮮はEV事業に継続的に取り組んでいる。夜になると首都の平壌(ピョンヤン)でさえ電力供給が途絶える国でEVというのはやや意外だが、北朝鮮はすでに観光用電気カートを披露しており、最近では乗用EVを販売しているとみられる動きもある。ただし、その実態を見ると、独自技術というより中国製車両の輸入に近く、実際にどれほど広がるかは未知数だ。
半世紀に及ぶ北朝鮮のEV研究、成果は観光用カートにとどまる
脱北者出身で、北朝鮮産業技術研究所のカン・ヨンシル代表によると、北朝鮮は1975年から50年近く、リチウムイオンバッテリーをはじめとする二次電池研究を続けてきたという。1980年代には遊覧船や炭車など一部の輸送手段に二次電池を適用したこともあり、金正恩総書記の政権下で、関連技術の開発が加速したというのがカン代表の説明だ。

ただし、実際に公開された成果物は一般の乗用車ではなく、元山(ウォンサン)の海辺で運用する観光用電気カートだった。黄色い外装にキャラクターの顔をかたどったヘッドランプ、ワタリガニの脚のようなサイドミラーを備えているのが特徴だ。11人乗りカートは黄色いワタリガニ、17人乗りカートは銀色のナマズをイメージした。側面を完全に開放し、観光用途に合わせた仕様だったが、その後、実際に運行されたかは確認されていない。
「720km」走る馬頭山EV、実態はBYDの輸入車か
観光用カートとは別に、北朝鮮では乗用EV販売の動きも見られる。2024年6月、北朝鮮の官営メディアがYouTubeで公開した宣伝映像には、「馬頭山(マドゥサン)電気自動車」のロゴを付けた4ドアセダンが平壌市内を走る様子が映っていた。フル充電で最大720kmを走行できると紹介されている。

しかし、海外メディアの確認では、この車両は中国BYDのセダン「漢(Han)」と事実上同一モデルであることが分かった。BYDの欧州公式サイトによると、「漢」のWLTP航続距離は約661kmで、北朝鮮側が掲げた720kmには届かず、誇張との指摘も出ている。この車両を輸入・販売するのは、2018年5月に設立された対外貿易企業「馬頭山経済連合会」だ。平壌・和盛(ファソン)通りには「馬頭山電気自動車展示場」も設けられ、BYD車両が展示されている様子が中国の微博(Weibo)で確認されたこともある。
問題は、国連安全保障理事会が自動車を贅沢品に分類し、北朝鮮への輸出を禁じている点だ。BYD車両が実際に北朝鮮へ輸入されているのであれば、安保理決議違反に当たる可能性があるとの指摘も出ている。さらに、北朝鮮住民のうち電気を自由に使える人が半数にとどまる状況を考えれば、実際の購入層が誰なのかも疑問として残る。

平壌国際EVエキスポ構想も浮上している
北朝鮮のEVをめぐる動きは、最近では韓国側の民間分野にも広がっている。2026年3月、韓国・済州(チェジュ)では「2027平壌国際EVエキスポ(PIEVE)」推進に向けたラウンドテーブルが開かれ、テスラ、ヒョンデ、キア、GM、トヨタ、BMW、BYDなど、世界の完成車メーカーの参加を促す方策が議論された。平壌から元山までの約170km区間で、EV走行を実証する構想も示されている。
観光用電気カートから輸入セダン、さらに国際エキスポ構想まで、北朝鮮のEVをめぐる動きは続いている。しかし、慢性的な電力難と限られた購買力という根本的な制約が解消されない限り、こうした試みが実際の交通手段として広がるまでには、なお時間がかかりそうだ。