
2025年6月、日本の自動車産業が収益性の危機に陥っていることが明らかとなった。財務省の最新の貿易統計によれば、対米自動車輸出単価は4か月連続で下落を続け、前年同月比で29.1%という大幅な落ち込みを記録した。これは米国市場における日本車の販売構造が、根本的な岐路に直面していることを示唆するものだ。
日本経済新聞の報道によると、6月の対米自動車輸出額は前年同期比26.7%減の4,193億円となった。しかし、輸出台数自体は前年比3.4%増の12万3,840台を記録したという。1台あたりの輸出単価は約338万円となり、前年より約140万円も下落した計算となる。単価下落が収益性を大きく押し下げている状況が浮き彫りとなった。
価格下落、崩れる収益性…関税の影
この単価下落の背景には、トランプ政権以来継続する関税措置による負担がある。自動車業界は関税コストを吸収するため、価格の引き下げや低価格帯モデルの輸出比率を高める戦略を取ってきた。その結果、日本銀行の企業物価指数によれば、北米向けの輸出価格は3月から6月までの間に18.2%も下落したという。価格を犠牲にして台数を維持した結果、メーカーの収益性が深刻な圧迫を受けている。
ニッセイ基礎研究所の試算によると、対米輸出単価が10%下がると自動車業界全体の経常利益が約12.9%も減少する。現状の29.1%という単価下落を考慮すれば、実際の収益性への影響はさらに深刻化すると予想される。
業界、価格引き上げを模索も限界は明白
現在、自動車業界では価格引き上げの検討が進んでいるものの、市場の価格感応度や継続する関税負担を考えると、実効性は限られるとの見方が支配的だ。KPMGは「短期的にはシェア維持のため値下げを行うだろうが、中長期的には値上げせざるを得ない状況に追い込まれる」と指摘する。しかし、消費者が価格に敏感になっている現状では大幅な価格引き上げも難しく、業界は難しいジレンマに陥っている。
日本全体の輸出も揺らぐ…自動車産業依存度露呈
自動車産業は日本全体の輸出経済を支える柱であるため、この問題は自動車業界だけの問題ではない。6月の対米総輸出額は前年同期比11.4%減少し、日本全体の輸出額も0.5%減の9兆1,625億円にとどまった。半導体製造装置など一部産業の好調に支えられ、2025年上半期の輸出額は前年同期比3.6%増となったが、自動車産業の不振が長引けば、日本経済全体への影響が拡大する可能性がある。
数字上では一見小幅な下落に見えるが、日本の製造業の象徴であり外貨獲得の中心的役割を担う自動車輸出の揺らぎは、日本経済全体の体力低下に直結する構造的リスクを内包している。
結論:輸出戦略の転換点に立つ日本車
電動化の波、世界的な保護貿易主義、消費者の価格感応度上昇など複数の要因が複雑に絡み合い、日本の自動車産業は米国市場での新たな戦略策定を迫られている。単なる単価引き下げや価格調整だけではもはや収益性を確保できない時代に突入した。
今後は価格競争力だけではなく、製品自体の競争力強化、ブランド信頼性の維持、現地生産の拡充、そしてEVを中心とした次世代モビリティへの投資が、業界が生き残るための鍵となるだろう。