ドアが正面にあるクルマ!? 60年代アメリカで生まれた「異端の伝説」がいま再注目される理由とは

ダッジ・デオラ、クライスラーの異端コンセプト
フロントにドアを配置した前代未聞の構造
今なお語り継がれるカルト的存在

引用:dzen.ru
引用:dzen.ru

フロントにドアが付いたピックアップトラック――想像すら難しい奇妙なクルマかもしれない。だが、それは空想ではなく、1960年代に実在した。その名は「ダッジ・デオラ(Dodge Deora)」。商用車ダッジ・A100をベースにしたカスタムモデルで、当時の自動車デザインの限界を打ち破った革新の一台として知られている。今見てもなお前衛的なスタイルと構造は、多くの人々を魅了し続けている。

この車は単なるショーカーにとどまらなかった。クライスラーの公式コンセプトカーとしても認められ、後にHot Wheelsのダイキャストモデルとして商品化されるなど、その象徴性は際立っていた。実車は今も現存しており、2009年のオークションでは32万ドル(約5,037万円)で落札され、その価値の高さを改めて証明した。

引用:インスタグラム @hagertydriversfoundation
引用:インスタグラム @hagertydriversfoundation

正面から乗り込む異形の車
60年代カスタムカルチャーの極致

ダッジ・デオラには「通常のドア」がない。正確に言えば、サイドにはドアが存在せず、乗降はフロントウィンドウを上に跳ね上げ、下部パネルを手前に倒して行うという前代未聞の方式を採用している。このため、当時から「正面衝突時に脱出できないのでは?」との懸念もあったが、その斬新な発想こそが1960年代のホットロッド&カスタムカルチャーを象徴していた。

この独創的な構造は、デザイナーのハリー・ブラッドリー氏とカスタムビルダー、アレクサンダー兄弟(マイク&ラリー)による協業で生まれた。ベースとなったダッジ・A100は、フロントセクションを含むほぼすべてが改造され、その大胆さがカーマニアたちの話題をさらった。

デザインだけでなく、シャシー、サスペンション、エンジン配置に至るまで大幅に手が加えられている。パワートレインはミッドシップ化され、フロントガラスの電動開閉機構、ヨーク型ステアリングなども装備。すべてが当時としては異例のチャレンジだった。この圧倒的な個性が評価され、1967年のデトロイト・オートラマでは最高賞「リドラー・アワード」を受賞している。

引用:インスタグラム @hagertydriversfoundation
引用:インスタグラム @hagertydriversfoundation

ダッジ・A100を芸術に昇華させた
大胆なカスタマイズ

ベース車両は、当時ごく普通の商用ピックアップだったダッジ・A100。だが、ブラッドリー氏の手によって「未来のクルマ」ともいえる姿へと生まれ変わった。フロントエンドには1960年型フォードのパーツが、リアのテールライトにはサンダーバードの部品が流用されている。クライスラーのコンセプトカーでありながら他社のパーツを取り入れるという、ある種のアイロニーすら感じさせる構成だ。

全高は約144cmまでローダウンされ、インテリアも一新。計器類はドアパネル付近に移設され、左右のエアベントにはマスタングのテールライトベゼルを流用。エンジンは2.8リッターのスラント6を継承しつつ、駆動方式は前輪駆動から後輪駆動へ変更されたことで、走行フィールも一変した。

その後、デオラはクライスラーのコンセプトカーとして全米各地のショーを巡回。ブラッドリー氏がマテル社に加わったことを機に、デオラは「ホットウィール初期モデル」の一つとして商品化されるに至った。こうしてこの車は、コンセプトカー、カスタムカー、さらにはおもちゃという3つの領域をまたいで愛される“真のアイコン”となった。

あわせて読みたい

関連キーワード

コメントを残す

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

こんなコンテンツもおすすめです

Honda-new-passport1
ブランド史上最強を名乗る新型パスポート、ホンダが振り切った“男のSUV路線”
CP-2023-0397-34062193-thumb
トヨタ、欧州向け「真のSUV」宣言 アーバンクルーザーは常識を変えるか
CP-2023-0397-34062192-thumb
世界の新車4台に1台がEV、新興国が主役に躍り出た2025年
CP-2022-0081-34011071-thumb
派手さなしでも勝負、2026年カムリHVが韓国で示す存在感
CP-2023-0065-34027693-thumb
「日本だけに託された特権」ホンダが魂を復元、NSXは工場で蘇る
CP-2024-0164-34110481-thumb
衝突試験で明暗分かれた独高級車、アウディだけが新基準突破
CP-2024-0164-34110483-thumb
熱湯もワイパーも逆効果?出勤前に詰む冬のフロントガラス最短解決法
CP-2024-0164-34110475-thumb
エンジンオイル、実は誤解だらけだった?多くのドライバーが信じてきた常識
  • アクセスランキング

    ブランド史上最強を名乗る新型パスポート、ホンダが振り切った“男のSUV路線”
    トヨタ、欧州向け「真のSUV」宣言 アーバンクルーザーは常識を変えるか
    世界の新車4台に1台がEV、新興国が主役に躍り出た2025年
    派手さなしでも勝負、2026年カムリHVが韓国で示す存在感
    「日本だけに託された特権」ホンダが魂を復元、NSXは工場で蘇る
    衝突試験で明暗分かれた独高級車、アウディだけが新基準突破
    熱湯もワイパーも逆効果?出勤前に詰む冬のフロントガラス最短解決法
    エンジンオイル、実は誤解だらけだった?多くのドライバーが信じてきた常識
    EV購入補助金が最大130万円に、優遇の裏で何が変わった?
    テスラBYDの世界戦でも別軸、日本はサクラで首位を取り切った

    最新ニュース

    Honda-new-passport1
    ブランド史上最強を名乗る新型パスポート、ホンダが振り切った“男のSUV路線”
    CP-2023-0397-34062193-thumb
    トヨタ、欧州向け「真のSUV」宣言 アーバンクルーザーは常識を変えるか
    CP-2023-0397-34062192-thumb
    世界の新車4台に1台がEV、新興国が主役に躍り出た2025年
    CP-2022-0081-34011071-thumb
    派手さなしでも勝負、2026年カムリHVが韓国で示す存在感
    CP-2023-0065-34027693-thumb
    「日本だけに託された特権」ホンダが魂を復元、NSXは工場で蘇る
    CP-2024-0164-34110481-thumb
    衝突試験で明暗分かれた独高級車、アウディだけが新基準突破

    主要ニュース

    CP-2023-0395-34036585-thumb
    EV購入補助金が最大130万円に、優遇の裏で何が変わった?
    CP-2023-0397-34037026-thumb
    テスラBYDの世界戦でも別軸、日本はサクラで首位を取り切った
    CP-2022-0212-34000960-thumb
    「あれ、エンジンがかからない?」冬の朝に止まった理由、バッテリーはすでに警告を出していた
    CP-2022-0212-34000959-thumb
    登録・更新をアプリで簡素化、ソニー・ホンダのデジタルナンバー戦略
    CP-2023-0065-34001050-thumb
    「1万ドルでV8?」市場から消えたピックアップが再浮上、三菱レイダーの正体
    CP-2023-0065-33984468-thumb
    「最初から相手ではない」マスク氏が断言、Waymoとの無人競争が一気に加速