
車のトランク内をよく見てみると、見慣れないレバーが付いている車がある。普段は目に留めることすらない部品だが、これには明確な目的がある。トランクに付いた謎のレバーは、どのような用途で使われるのか。
トランク内の謎のレバー、緊急脱出のために備えられている
この装置の名称は緊急脱出レバーだ。トランク内に閉じ込められた人が、自力でトランクを開けて脱出できるよう、内部に設置された取っ手である。多くは夜光や蛍光素材で作られており、光がほとんど入らない暗い空間でも、手探りやわずかな光を頼りに位置を見つけられる。
位置は車種によって少しずつ異なるが、多くはロック装置の近くにある。引っ張ると、トランクがどのようにロックされていても開くよう設計されている。

最近はキーやボタンでトランクを開閉する電動式の車が増え、このレバーがなくなったと誤解されることもあるが、実際はそうではない。米連邦自動車安全基準(FMVSS 401)は、メーカーに2つの方式のいずれかを選ぶよう求めている。1つはここまで説明した手動レバー方式で、もう1つはトランクが閉じた後、中に人が残っていることをセンサーが検知すると、5分以内に自動でロックを解除する方式だ。
つまり、電動トランクのボタンは外から楽に開けるための利便機能にすぎず、中に閉じ込められたときに備えた脱出装置とは別物だ。車によっては、目に見える夜光の取っ手ではなく自動検知方式を採用している場合もあるが、いずれにしても内部からの脱出手段自体は現在も義務付けられている。
緊急脱出レバーはどんな状況で使うのか
この装置が使われる状況は、大きく2つに分けられる。1つは犯罪によって強制的にトランクに閉じ込められる場合、もう1つは子どもが遊んでいる最中に自分でトランク内に入り、ふたが閉まって出られなくなる事故だ。

実際、米国では1990年代に子どもがトランクに閉じ込められて死亡する事故が相次ぎ、社会問題となった。これをきっかけに、2001年に米連邦自動車安全基準(FMVSS 401)が設けられた。この基準により、2001年9月以降に生産されるトランク付き乗用車には、緊急脱出レバーの装着が義務付けられた。
安全先進国の日本ではむしろ状況が逆転している
日本は自動車の安全規制に厳しいことで知られるが、トランクの緊急脱出レバーについては事情が異なる。日本には、米国のような法的な義務規定そのものがない。
さらに、1990年代以降に日本で販売される車の多くは、ワイヤーでつながる機械式ロックから電磁式ロックへ移行した。その結果、トランク内から引けるケーブルやワイヤーすら残っていない車種が大半を占めるようになった。

結果として、トランクに閉じ込められたときに操作できる物理的な装置を見つけにくい状況になっている。米国が法律で安全装置を義務付けたのに対し、日本ではむしろ技術の進歩が脱出の可能性を下げた形だ。
同じトランクでも、どの国向けに販売される車かによって、閉じ込められた際の生存可能性は大きく変わる。米国仕様の車は法的義務により大半が緊急脱出レバーを備えているが、日本仕様の車はそうした装置がないだけでなく、ロック方式そのものが脱出をより難しくしている。自分の車にこうした装置があるかを事前に確認しておくだけでも、万が一の事態に備える最低限の準備になる。