カムリ復活、未発売モデルも対象に…トヨタが米国生産車を日本市場へ逆輸入、「国内工場との共食い」リスクも

トヨタ自動車が米国で生産した車両を日本市場に逆輸入する方針を明らかにした。背景には、最近妥結した日米通商交渉による環境変化があり、自動車業界にもその余波が及び始めている。

引用:Depositphotos
引用:Depositphotos

トヨタの豊田章男会長は、大分県日田市で記者団に対し「米国生産車の一部を日本に導入する計画を進めている」と説明。米国向けとして開発・生産されているモデルの中には、現在日本市場で販売されていない車種も多く含まれており、それらを選別した上で導入を図る考えだとした。

具体的には、国内で既に生産を終了した中型セダン「カムリ」や、日本では未展開のピックアップトラックが検討対象とされている。トヨタはこの方針について「政治的な判断ではなく、実務的な対応」と強調。通商交渉によって生じた制度変更に対し、企業としての柔軟な適応を示した形だ。

日本政府は今回、米国製自動車の認証手続き簡素化に踏み切った。豊田氏はこれについて「非関税障壁の一部が解消されたのは前向きな進展」と評価。認証制度の緩和によって、米国生産車の日本導入が現実味を帯びつつある。

一方、社内外からは懸念の声も上がっている。トヨタが自社ブランドで国内生産と米国生産の両モデルを展開する場合、価格や装備構成で競合するリスクがあり、結果的に国内工場の稼働率や雇用に影響を及ぼす可能性があるためだ。

トヨタは1990年代にも米国製カムリを逆輸入した前例があるが、その際は価格競争力や部品供給の問題により、限定的な成果にとどまった。今回の逆輸入施策も同様の課題を抱える可能性があるが、技術や物流インフラの進化により、当時よりは柔軟な対応が可能となっている。

日米間の通商交渉では、日本政府が総額5,500億ドル(約81兆円)規模の対米投資を表明したものの、その解釈を巡って両国の認識が大きく食い違っている。米国側は「日本の資金が自国プロジェクトへ直接投入され、利益の大半を米国が得る」と主張する一方、日本側は「あくまで出資・融資・担保といった間接的支援であり、利益配分も確定していない」との立場を取っている。

こうした不透明な通商環境の中で、トヨタの米国生産車逆輸入は「日米のバランスを取る企業戦略」とも受け取れる。日中韓を含むグローバル自動車メーカー各社が、米国市場への対応を多角的に進めるなか、米政府が求める国内雇用と生産拠点拡充のプレッシャーは今後さらに強まる見通しだ。

自動車関税の引き下げについても両国で見解が分かれている。日本政府は来月1日より関税率を現行の25%から15%に引き下げると発表したが、米国側は具体的な施行日を公式に明言していない。政治判断の食い違いが、自動車産業の先行きに不透明感をもたらしているのが現状だ。

立憲民主党の野田佳彦代表も「交渉結果の解釈の違いが今後の関係性に大きな影を落とすだろう」と発言しており、自動車分野に限らず経済・外交両面での波紋が広がっている。

トヨタが今回打ち出した逆輸入方針は、単なる物流や販売政策にとどまらず、日本の自動車産業全体にとっての構造的変化の兆しとも言えるだろう。特にグローバル生産と地域展開の関係性が、今後ますます複雑化していくことは間違いない。

あわせて読みたい

関連キーワード

コメントを残す

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

こんなコンテンツもおすすめです

CP-2024-0164-32535565-thumb
【スクープ】ポルシェ「カイエン・クーペEVターボGT」目撃!総出力1,000馬力超で2026年以降登場へ
CP-2023-0070-32488483-thumb
【ホンダ】ジャパンモビリティショー2025で「ホンダ0シリーズ」初公開…サルーン&SUVプロトタイプ登場
CP-2023-0397-32484846-thumb
【トヨタ】RAV4&ランドクルーザー派生の新型EV SUV…米ケンタッキー工場で生産、2027年までに投入
CP-2025-0133-32501452-thumb
ボルボCEO警告「中国EV攻勢で欧米ブランドは一部消える」…完全EV化計画を修正しつつも“電動化は不可逆”
CP-2024-0164-32502362-thumb
【スクープ】メルセデス新型「ミニG」を初キャッチ!価格はGクラスより大幅ダウン、電動化で新市場狙う
CP-2024-0164-32502361-thumb
【新型SUV】ポルシェ「Octan S」公開…マカン上位に投入される戦略的モデル、最大560ps&PHEVを採用
CP-2025-0133-32501357-thumb
【新コンセプト】GMCハマーHEVピーク…2ドアSUVでラングラー&ブロンコに挑戦、未来志向デザインにSNS熱狂
CP-2023-0215-32484473-thumb
レクサス新型「IS」、3度目のマイナーチェンジを実施…大型グリルと最新安全技術で進化
  • アクセスランキング

    【スクープ】ポルシェ「カイエン・クーペEVターボGT」目撃!総出力1,000馬力超で2026年以降登場へ
    【ホンダ】ジャパンモビリティショー2025で「ホンダ0シリーズ」初公開…サルーン&SUVプロトタイプ登場
    【トヨタ】RAV4&ランドクルーザー派生の新型EV SUV…米ケンタッキー工場で生産、2027年までに投入
    ボルボCEO警告「中国EV攻勢で欧米ブランドは一部消える」…完全EV化計画を修正しつつも“電動化は不可逆”
    【スクープ】メルセデス新型「ミニG」を初キャッチ!価格はGクラスより大幅ダウン、電動化で新市場狙う
    【新型SUV】ポルシェ「Octan S」公開…マカン上位に投入される戦略的モデル、最大560ps&PHEVを採用
    【新コンセプト】GMCハマーHEVピーク…2ドアSUVでラングラー&ブロンコに挑戦、未来志向デザインにSNS熱狂
    レクサス新型「IS」、3度目のマイナーチェンジを実施…大型グリルと最新安全技術で進化
    「新型T-ロック」フォルクスワーゲン、8年ぶり全面刷新でグループ初のフルハイブリッドを搭載
    【新記録】単一充電1342km、メルセデスEQS試験車が全固体バッテリーで欧州ルートを走破した

    最新ニュース

    CP-2024-0164-32535565-thumb
    【スクープ】ポルシェ「カイエン・クーペEVターボGT」目撃!総出力1,000馬力超で2026年以降登場へ
    CP-2023-0070-32488483-thumb
    【ホンダ】ジャパンモビリティショー2025で「ホンダ0シリーズ」初公開…サルーン&SUVプロトタイプ登場
    CP-2023-0397-32484846-thumb
    【トヨタ】RAV4&ランドクルーザー派生の新型EV SUV…米ケンタッキー工場で生産、2027年までに投入
    CP-2025-0133-32501452-thumb
    ボルボCEO警告「中国EV攻勢で欧米ブランドは一部消える」…完全EV化計画を修正しつつも“電動化は不可逆”
    CP-2024-0164-32502362-thumb
    【スクープ】メルセデス新型「ミニG」を初キャッチ!価格はGクラスより大幅ダウン、電動化で新市場狙う
    CP-2024-0164-32502361-thumb
    【新型SUV】ポルシェ「Octan S」公開…マカン上位に投入される戦略的モデル、最大560ps&PHEVを採用

    主要ニュース

    CP-2024-0164-32484135-thumb
    「新型T-ロック」フォルクスワーゲン、8年ぶり全面刷新でグループ初のフルハイブリッドを搭載
    CP-2024-0164-32485039-thumb
    【新記録】単一充電1342km、メルセデスEQS試験車が全固体バッテリーで欧州ルートを走破した
    CP-2024-0164-32485079-thumb
    「空も電気車時代」に突入!破産リリウム施設を継承した独ベリディオンが新型e航空機を加速開発
    CP-2024-0164-32484001-thumb
    ホンダ新型「CR-V」、スポーティに進化!2027年型レンダリング公開…300馬力級PHEV投入の可能性も
    CP-2024-0164-32484018-thumb
    テスラ神話崩壊!米EVシェア「80%→38%」大暴落…フォード・GM・中国勢が王座に牙を剥く
    CP-2023-0273-32459007-thumb
    【IAA2025】ミュンヘン市街がモーターショー会場に…VW・メルセデス・BYDが最新EVと未来技術で激突