最後まで共にした日常の愛車
華やかなスーパーカーの中で光る感性
手頃な価格と推定される競売価格

伝説的な映画俳優であり、自動車愛好家としても知られるスティーブ・マックイーンの愛車が競売に掛けられる。ポルシェ、フェラーリ、マスタングなど華やかなスーパーカーを所有していた彼が、最後まで大切にし、日常的に自ら運転していたのは1952年式ハドソン・ワスプ・クーペだった。この車は彼の感性と生活を象徴する存在であり、自動車ファンの間で大きな話題となっている。
今回の競売は、マックイーンの遺産の一つであるハドソン・ワスプが、19年間にわたる博物館での展示を経て新たなオーナーを探すという点で特別な意味を持つ。質素ながらも歴史的価値を備えたこの車両は、単なる高価なコレクションを超え、マックイーンという人物の本質を映し出す遺産として評価されている。

RMサザビーズによって競売に出品されるこの車両は、マックイーンが生前「日曜日に教会へ行くときの車(Sunday-go-to-church car)」と呼び、愛用していたモデルだ。派手さを抑えたクラシックなデザインが印象的で、1950年代の技術の粋を集めた直列6気筒「ツインHパワー」エンジンと、当時としては珍しい4速オートマチックトランスミッションを搭載している。走行距離は6万3,537マイル(約10万2,253km)に達し、オーナーの使用の痕跡がそのまま残されている。
マックイーンはハドソン・ホーネットなど複数のハドソン車を所有しており、このブランドへの愛着は並々ならぬものだった。速さや派手さだけを求めなかった彼の価値観が、この選択に現れている。今回の競売は、映画『カーズ』で登場した「ライトニング・マックィーン」などを通じ、再びハドソンブランドが注目を集めていることとも重なり、さらなる関心を呼び起こしている。

今回のハドソン・ワスプの予想落札価格は数万ドル程度とみられており、映画『ブリット』に登場したマスタングが374万ドル(約5億6,860万円)で落札されたのと比較すると、はるかに手頃な価格でマックイーンの遺産を手に入れられる可能性がある。競売関係者は、この車がマックイーンの質実な趣味と歴史的価値を体現する希少な一台であることから、高い注目を予想している。
高価なスーパーカーではなく、日常と共に過ごした車を通してスティーブ・マックイーンの人間味あふれる一面に触れられる点こそ、今回の競売の最大の魅力といえる。果たしてこの特別なハドソン・ワスプがどのような新たなオーナーのもとへ渡るのか、世界中の自動車ファンの視線が注がれている。