
グローバル完成車業界は、低価格攻勢をかける中国の電気自動車(EV)メーカーや、自動運転分野をリードする米国のテスラなど、新興企業によって急速に再編されている。「自動車の本家」であるドイツの完成車メーカー各社も、生き残りをかけた抜本的な刷新に突入した。2025年末に創業以来初めてとなるドイツ国内の工場閉鎖に踏み切ったフォルクスワーゲングループ(VW)は、生産能力をさらに削減する方策を検討している。またメルセデス・ベンツも、主力モデルに集中する勝負に出た。看板モデルである大型セダン「Sクラス」に、過去最大規模のマイナーチェンジを敢行したのだ。車両内の2,700の構成要素を一新し、「フルモデルチェンジに近い水準」と評価されている。
ベンツの「スーパーコンピューター」という切り札
● ベンツ、創業以来最大のマイナーチェンジ
ベンツの新型Sクラスには、1秒間に250回の演算を行うスーパーコンピューターが搭載された。このスーパーコンピューターが自動運転、パフォーマンス、充電など、すべてのデータを収集し判断する。3〜4年にわたる研究の末、エンジン部品の80%以上を刷新し、エンジン性能も改善した。グリルは20%大型化し、照明量は40%増加した一方で、エネルギー消費は50%削減されている。前席のセンターコンソールでは、これまで1台のみだったスマートフォンの充電が、同時に2台まで可能となった。前席のシートベルトには、初めてヒーター機能が内蔵される新技術も適用された。
ベンツがこのように技術を集約して新型Sクラスを投入したのは、ドイツ車のプライドを守ろうとする切実な勝負だと言える。中国メーカーなど新興企業が台頭する中、ドイツ企業の業績は急速に悪化している。ベンツの昨年の営業利益は58億2,000万ユーロ(約1兆800億円)で、前年比57.2%の急減となった。同時期のVWの営業利益も89億ユーロ(約1兆6,500億円)で、53.5%減少している。ベンツの乗用車・バン部門グローバルコミュニケーション責任者を務めるロブ・ハロウェイ氏は、「以前の競争はドイツ国内でのものだったが、今は世界規模に広がっている」とし、「中国メーカーが急成長しているが、ベンツがこれまで築いてきた実績を今後も継続していく」と述べた。
VWの生き残り策:削減と防衛産業への転換
● 削減と防衛産業への事業転換で活路を見出すVW
VWは削減政策で生き残りを模索している。創業以来初めて昨年12月にドイツ国内の工場を閉鎖した同社は、2030年までにドイツ国内で5万人の雇用を削減する計画だ。今年のグローバル生産能力も、さらに100万台削減し、900万台規模に縮小する方策を推進している。特にVW傘下のポルシェは、大規模な組織のスリム化に乗り出している。ポルシェは、当初EVシフトの要であったバッテリーおよびソフトウェアの子会社3社を最近になって電撃的に閉鎖した。
また、自動車工場を防衛産業向け工場に転換する事業の多角化も進める。VWのドイツ・オスナブリュック工場は、イスラエルの国営防衛企業ラファエルの防空システム「アイアンドーム」の部品生産拠点に転換される予定だ。
自動車大国のプライドを捨て、中国の技術を導入し、積極的に協業に乗り出す動きも見られる。VWは、「中国のテスラ」と呼ばれるシャオペン(小鵬汽車)の次世代自動運転ソリューション「VLA 2.0モデル」を採用するなど、自社開発ではなく中国製ソリューションの導入を選択した。グローバルな大手完成車メーカーが、中国企業が開発した自動運転ソフトウェアを市販モデルにそのまま導入する初の事例となる。
中国市場での協業が示す生存戦略
ベンツもまた、自動運転ソリューション分野において、中国市場ではNVIDIAではなく現地企業と協業している。中国で発売されるベンツの新型Sクラスには、中国のスタートアップ企業であるモメンタと協業した自動運転技術が採用された。EVシフトに注力するBMWも、看板モデルである電動SUV「iX3」のシャシー開発を、モメンタやファーウェイ、アリババなどの中国の提携企業に委託した。