「SUVは家族の安全車は幻想か」横転34%・制動距離1.8m長い”3つの弱点”を専門家警告

引用:ホンダ
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過去20年間、SUVは「家族のための安全な車」というイメージを消費者に定着させてきた。大きな車体はより安全で、高いシートポジションはより広い視界を提供し、多くの車体構造物が乗員をよりよく保護するという認識が根付いた。

この流れはセダン市場の縮小とSUV販売の拡大につながった。メーカーにとってもSUVは収益性が高く、環境規制への対応面でも有利な車種として位置づけられている。道路でSUVをますます頻繁に見かけるのもこのためだ。

もちろん、SUVがすべての面で不利なわけではない。小型車との衝突では、大きな車体と車両重量が乗員保護に有利に働くことが多い。物理法則上、より大きく重い車両が衝突時に相対的に有利なのは事実で、これまでの事故分析データもこれを裏付けている。

しかし、安全性は単に車体の大きさだけで決まるわけではない。特にSUVには消費者には見えにくい構造上の弱点も存在する。

引用:トヨタ自動車
引用:トヨタ自動車

第一は横転リスクだ。

SUVはセダンよりも車体が高く、重心も高い。このため、急激な方向転換や緊急回避の場面では横転リスクが相対的に高まる場合がある。米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)はこれを「静的安定係数(Static Stability Factor)」で評価し、車幅に対する重心の高さを基準に横転の可能性を判断している。

一般の乗用車は通常1.3〜1.5程度であるのに対し、SUVは1.0〜1.3程度にとどまることが多い。この数値が低いほど横転リスクは高まる。

実際の事故統計でも差が現れる。IIHSによると、2023年にSUVの乗員が死亡した事故のうち横転事故が占める割合は約34%で、乗用車の約21%を大きく上回った。特に単独事故ではSUVの横転比率と死亡率がより高い傾向がある。

近年は電子式車体制御装置や走行安定技術の進化により、横転事故は以前と比べ減少している。ただし、重心の高い車両が高速で急激に向きを変える際の物理的な限界を完全に排除することはできない。

引用:レクサス
引用:レクサス

第二は制動距離だ。

SUVは同じプラットフォームやパワートレインを採用するセダンより数百kg近く重い場合が多い。例えば、ホンダCR-Vは、同クラスのセダンであるアコードより約181kg重い。車両重量が増えると慣性も大きくなるため、急制動時にはより大きなエネルギーを吸収する必要がある。

米国の消費者調査機関コンシューマー・リポートのテストによると、中型高級SUVは同クラスの高級セダンより、時速100kmからの制動距離が平均約1.8m長いという結果が出た。数字だけ見れば小さな差に見えるが、実際の事故状況では、セダンがすでに停止した地点でSUVがまだ走行中という事態が起こりうる。

電動SUVではこの問題がさらに複雑になる。大容量バッテリーパックによって車両の空車重量が大幅に増加するためだ。近年の電動SUVの一部はスポーツカーに迫る加速性能を実現している一方、車両重量が3トン近くに達するモデルも存在する。大径ブレーキや幅広タイヤ、高度な制御システムによって対応は可能だが、重量に起因する物理的な負荷は依然として残る。

第三は単独事故での危険性だ。

SUVは小型車との衝突では乗員保護の面で有利だ。しかし、樹木やコンクリート構造物、電柱といった静止物体と衝突する場合は様相が異なる。重い車両ほど大きな運動エネルギーを持つため、衝突時の衝撃もそれだけ大きくなる可能性がある。

引用:日産
引用:日産

車体構造による違いもある。医学論文データベースPubMedに掲載された研究によると、ユニボディ構造のSUV乗員はボディオンフレーム方式のSUV乗員より死亡リスクが約18%低いとされた。これは大型SUVが外観とは裏腹に、最新のクロスオーバーSUVより衝突安全性が高いとは必ずしも言えないことを示している。

結局、SUVは状況によってより安全にもより危険にもなりうる車両だ。他の車両との衝突では大きな車体と車両重量が乗員を保護するうえで有利に働くが、横転事故や急制動、単独事故、歩行者との衝突が発生する場面では逆に危険要因となる可能性がある。

SUVは広い室内空間と高い視界、優れた実用性を備えたファミリーカーとして根強い人気を集めている。子どもやペット、大きな荷物を積むうえでも実用性に優れた選択肢といえる。

ただし「大きな車が常により安全である」という認識は、技術的な実態というよりも市場やマーケティングによって形成されたイメージに近い面もある。SUVを選ぶ際には車体の大きさだけでなく、横転安定性、制動性能、ボディ構造、使用環境も含めて総合的に検討することが求められる。

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