
テスラ・サイバートラックが、再び安全性論争の渦中に立たされた。単なる事故を超え、車両設計そのものを問う大型訴訟へと発展している。EVの安全基準全体に影響を与えうる重要なケースとして、世界中の業界関係者と消費者の視線が集まっている。
事件が起きたのは2024年の感謝祭直前。カリフォルニア州ピードモントの路上で午前3時頃、19歳のソレン・ディクソンが運転するサイバートラックが道路を逸脱し、街路樹に衝突した。車内には大学生4人が乗っていた。

問題は衝突後だ。訴訟資料と現地報道によれば、車両は衝突直後に炎上。火の勢いは約3メートルの高さに達し、瞬く間に車体全体を包んだと目撃者たちは証言している。車内にはディクソンのほか、ジャック・ネルソン、クリスタ・ツカハラ、ジョーダン・ミラーの計4人が乗車していた。
生存者はミラー1人だけだった。事故直後に現場へ駆けつけた知人は、ドアを開けようとしたが開かなかったと証言している。サイバートラックは機械式の外部ドアハンドルを持たず、低電圧電気システムによる電子式ドアを採用。衝突・火災による電力喪失で、そのシステムが機能しなかったとされる。
知人は最終的に枝でフロントガラスを破壊してミラーを救出したが、残りの3人は車内に閉じ込められたまま脱出できなかった。
ミラー自身も重篤な状態だった。肺・気道の熱傷、3度の火傷、腸切除、脊椎骨折という複合的な傷害を負い、事故後5日間は昏睡状態が続いた。現在も身体的・精神的な後遺症が残っているという。

訴訟の焦点は「電子式ドア」だ。原告側は、機械式ドアハンドルを廃し電子システムに全面依存した設計が死者を生んだと主張。衝突や火災で電力が遮断された際、内側からの脱出も外部からの救助も不可能になるリスクを、設計段階で放置したという論理だ。
弁護団はさらに踏み込み、テスラが10年以上前からこの危険性を認識していながら対策を講じなかったと指摘。過失、設計欠陥、警告義務違反、リコール未実施と、複数の責任を問うている。
被告にはテスラだけでなく、運転者本人と車両所有者も名を連ねている。事故当時のディクソンの血中アルコール濃度は0.195%、薬物反応も陽性だったことが判明しており、責任の所在は複雑な様相を呈している。ただし、論争の核心が「車両設計の是非」にある点は変わらない。

テスラは即座に反論した。サイバートラックは米連邦安全基準を満たしており、潜在的リスクについてのユーザーへの告知も十分だったとする立場で、責任を全面的に否定している。
この訴訟が投げかける問いは、テスラ一社にとどまらない。利便性と革新を名目に機械式構造を電子システムへ急速に置き換える自動車業界全体が、「最悪の事態まで想定した設計だったか」を問われている。
機械式ドアは電力に依存せず、あらゆる状況で最低限の脱出経路を確保できる。電子式は先進性と利便性をもたらす一方、新たなリスクを内包する。技術の進歩と安全のあいだ、「許容できる革新の限界」はどこにあるのか。この訴訟は、業界全体にその回答を迫る試金石となりそうだ。
