「完売しても増産はしない」ホンダが新型インサイトで貫いた方針

引用:ホンダ
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なぜ「インサイト」だったのか——ホンダ新型BEVの命名に込めた事情

2026年4月17日、ホンダが3000台限定で発売した新型BEV「インサイト」。車名としては4代目にあたるが、先代が2022年末に国内販売を終えてから約3年半のブランクを経ての復活だ。開発責任者・小池久仁博氏への取材から、この車名復活の経緯が見えてきた。

もとは「e:N2」になるはずだった

このモデルは、中国で販売されている「e:NS2」「e:NP2」の姉妹車にあたる。Sは東風ホンダ、Pは広汽ホンダを示す記号で、日本仕様はこれらを外した「e:N2」として展開する構想だったという。

しかし小池氏によれば、日本市場では「プレリュード」「オデッセイ」「ヴェゼル」のように、親しみやすい固有の車名がなじむ土壌がある。加えて、中国国内でのe:NS2・e:NP2の販売が伸び悩んでいたことも影響し、単なる型式的な名称よりも、時代を象徴する車名を新たに与える方向に舵を切った。そこで行き着いたのが「インサイト」というブランドだったとしている。

「思想の継承」という車名のとらえ方

インサイトは歴代、ボディ形状こそ違えど、その時代の環境性能車を象徴する存在として位置づけられてきた。初代は空力を追求したハイブリッド、2代目はハッチバック、3代目は2モーター式のSPORT HYBRID i-MMDを搭載——形は変わっても、環境車としての役割を託されてきた車名という点は一貫している。

小池氏は、車格やボディ形状で名前を決めるこれまでのホンダの慣例に対し、今回は「思想」でネーミングを継承するという発想を採用したと説明する。BEVという新しいパワートレインであっても、その時代の環境車の象徴という意味では、インサイトの名を使う理由になり得ると判断したという。

3月12日の方針転換が背景に

インサイト導入の経緯を語るうえで欠かせないのが、2026年3月12日の記者会見だ。ここで三部社長が「0(ゼロ)サルーン」などの開発中止を発表し、ホンダのBEV戦略全体が見直されることになった。

それ以前のホンダは、2027年に0シリーズを日本市場に投入し、BEVラインアップを段階的に拡大していく計画だった。しかし0シリーズは先進技術を凝縮した分、価格が高くなりやすく、現行の軽自動車・内燃機関車・ハイブリッド車との価格差が大きく開いてしまう懸念があった。デザインの面でも0シリーズは踏み込みすぎているとの見方があり、内燃機関から0シリーズへ移行する「中間の階段」となるモデルが必要とされていた。そうした位置づけで生まれたのが、当初のインサイト構想だったという。

3月12日の会見で0シリーズの行方は変わったものの、小池氏は、内燃機関・ハイブリッドとインサイトを繋ぐ現在のラインアップ構成自体は機能していると捉えているとした。

価格550万円、なぜ3000台限定なのか

価格は消費税込みで550万円。国のCEV補助金130万円を適用すると実質420万円となる。

台数を3000台に絞った理由について、小池氏は日本の充電インフラの現状を踏まえ、1万台・2万台規模を設定しても実際に売り切れるかは未知数だとした。価格も安価とは言えず、実際にBEV、そしてインサイトへ乗り換える顧客層の規模が読みにくいことも踏まえ、あえて手堅い台数に抑えたという。市場から「もっと欲しい」という声が上がるくらいの規模感でなければ、その先の展開にもつながりにくいとの考えも示した。仮に大きな台数を設定して売れ残れば、部品供給を担うサプライヤーとの関係にも影響しかねないとの判断もあったとしている。

なお、3000台の完売後の追加展開については、小池氏は明確に否定した。中国向けインサイトの生産を担うサプライヤーとの契約上の制約があり、よほどの需要変化がない限り、追加生産は想定していないという。

想定する顧客層は「子育てを終えた夫婦」

ターゲット層について小池氏は、子どもが独立した50代後半の夫婦を想定していると語る。ミニバンやSUVからの乗り換えも見込んでおり、そのため完全なセダン形状ではなく、ヒップポイントをやや高めに設定してSUVらしさを持たせつつ、SUV然とした丸みのある形状は避けたという。

積載面でも、これまで積んでいた荷物を積めなくなるようなストレスがないよう配慮したとし、帰省した子どもの送迎や孫との外出時の荷物にも対応できる収納性を確保したとしている。

一方で、車体自体はことさら大きいわけではなく、見た目・乗り味ともBEV特有の部分を除けば特別な癖はないという。通勤や買い物といった普段使いから、週末の外出、ゴルフやキャンプ、温泉旅行まで幅広く使えるクルマを目指したとし、これまで働き続けてきた世代に、ゆったりと安心して過ごせる時間を車内で提供したいという思いも語られた。

BEV戦略の見直しという想定外の局面を経て、インサイトの立ち位置は当初の構想から変化した。それでもホンダがBEV展開を続けていく方針自体に変わりはなく、今回のインサイトはその布石と見ることができる。0シリーズ以降の展開とどうつながっていくのかは、今後登場するホンダの新型車のラインアップを見渡して初めて見えてくるだろう。

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