
自動車整備といえば、多くの人がエンジンオイル交換やスパークプラグの交換を思い浮かべる傾向にある。しかし、車両の走行安定性と操舵感覚を左右する重要な部品は、意外にも目立たない場所に隠されている。それがサスペンションシステムに使用される「ゴムブッシュ」である。
ゴムブッシュはロアアーム、スタビライザー、サブフレームなど車両下部の随所に使用され、金属部品間での振動や衝撃を吸収する緩衝材の役割を担っている。構造が単純で外部から視認しにくいため、整備の優先順位では後回しにされがちだが、走行安定性の観点では決して軽視できない部品といえる。
問題は、ほとんどのドライバーが異常が発生して初めてブッシュの存在に気付くという点である。段差を通過する際のきしみ音、高速走行時の不安定な挙動、ステアリング操作時の違和感などが代表的な兆候として挙げられる。
■ 異音の原因は摩耗よりも先に潤滑不足が疑われる
ゴムブッシュは基本的にグリスによる潤滑を前提に設計されている。適切な潤滑が維持されないと摩擦が増加し、それによって摩耗速度が急激に早まる。特にグリスが乾いた状態で走行を続けると、単なる騒音問題にとどまらず、操舵性能の低下を招く可能性がある。
摩耗が進んだブッシュはサスペンションのジオメトリを微妙に歪ませ、これが直進安定性の低下やタイヤの片減り(偏摩耗)に直結する。単なる異音として放置するには、その代償は決して軽くはない。
■ 過酷な環境に晒される足回り部品の現状が判明した
ゴムブッシュは車両の下部に位置し、通常の走行による摩耗だけでなく、環境的なストレスにも直接晒されている。夏の高温や冬の厳寒に加え、雨水や埃、冬季の路面に散布される塩法カルシウムなどが要因となり、ゴムの硬化や亀裂が加速する。このため、専門家はゴムブッシュを消耗品に近い管理対象と位置付けている。完全に破損する前の定期的な点検と管理が、最も効果的な予防策となる。

■ WD-40などの石油系潤滑剤はゴムブッシュに絶対に使用してはならない
車両管理に慣れたドライバーの中には、潤滑剤として「WD-40」を想起する者も少なくない。「WD-40」は多様な整備作業において有用であるが、ゴム部品への使用には適していない。同製品に含まれる石油系化合物は、ゴムを膨張させたり硬化させたりする副作用を引き起こす恐れがある。ワイパーブレードと同様に、ゴムブッシュも例外ではない。一時的に異音が解消されることはあるが、長期的にはブッシュの寿命を縮める要因となる。
■ ゴムの種類に応じた適切なグリスの選択が不可欠である
ゴムブッシュの管理において最も重要な点は、適切なグリスの選択である。すべてのグリスがすべてのゴムに対して安全であるとは限らない。天然ゴムのブッシュにはシリコングリスやPTFE(テフロン)グリスが適しており、ポリウレタンブッシュにはシリコングリスやリチウム石けんベースのグリスが推奨される。
スプレータイプの製品は利便性が高い一方で、一部の製品には石油系成分が含まれている可能性があるため、成分表の確認が必須となる。最も安全な方法は、自動車メーカーや部品メーカーが推奨する仕様に従うことである。また、注油前には必ずパーツクリーナーなどで既存の古いグリスや汚染物質を除去しなければならない。古いグリスの上に新しいものを重ねても、十分な効果は期待できない。
■ 過剰な塗布はかえって摩耗を加速させる恐れがある
ゴムブッシュの潤滑に関する誤解の一つに、グリスを多量に塗布するほど効果的であるという考えがあるが、これは逆効果を招く恐れがある。過剰なグリスは保護効果を高めるどころか、埃や砂を吸着して研磨剤のような役割を果たしてしまう。結果としてブッシュ内部に汚染物質が侵入し、摩耗を加速させる原因となる。適量を均一に塗布することが理想的である。
■ トラブルが発生する前の未然の点検が推奨される
ゴムブッシュは故障したとしても、即座に車両を停止させるような部品ではない。しかし、それゆえに危険が潜んでいる。徐々に走行感覚を鈍らせ、ある瞬間に車両の挙動に違和感を抱くことになる。エンジンオイルやブレーキパッドほど注目される機会は少ないが、下回りのゴムブッシュ管理も車両の寿命を左右する重要な要素である。問題が発生した後に交換するよりも、発生前の定期的な点検と管理を行うことが、はるかに合理的な選択であるといえる。