かつてのカーナビゲーションは、目的地近くに到着すると「目的地周辺です」というアナウンスとともに案内を終えることが多かった。そのため、一部ドライバーからは「案内を途中で放棄されたような感覚」と不便さを訴える声もあった。しかし、このような設計には単純な技術的限界を超えた理由が存在したのだ。
第一の理由として、目的地周辺まで来ると運転者が視覚的に位置を確認できるため、追加の案内が必要ないと判断されていた。道路幅や駐車場の状況などの詳細な条件は、運転者が直接確認する方が安全だという理由もあった。

第二に、GPSと地図データの精度が低かった点が挙げられる。当時のカーナビは数メートル以上の誤差が一般的で、衛星信号が途切れると誤った案内が発生する可能性があった。目的地近くで案内を終了することが、エラーを減らす合理的な方法だった。
第三に、カーナビ自体の処理能力の限界もあった。CPU性能が低いため、案内が詳細になると画面表示や音声案内が遅延する可能性があり、安全性の確保のために早めに案内を終了したという側面もある。

さらに、繰り返される音声案内が運転者の疲労を招いたり、地域で騒音問題が発生しないよう配慮した側面や、カーナビはあくまで運転補助ツールであるという、設計思想的な理由もあった。目的地近くまで案内したら残りは運転者が判断するという設計思想だ。
いまやスマホの地図アプリや最新のカーナビが進化し、目的地まで詳しく案内することが多い。現在と比較すると、当時のカーナビは「静かだが安全に道を案内する補助者」としての役割に忠実だったと言える。

